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二夜目
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怪談数  御 題    御投稿者様
0103 顔がない こころ様
これは私が仕事帰りのバスの中で体験した出来事です。
その日、思った以上に仕事がはかどらず、結局最終のバスで帰ることとなりました。
さすがに最終ということでバスの乗客は少なく、私は中ドアを入ってすぐ真正面にある一人用のイスにこしかけることにしました。
私の家はバス停の終点近くにあり降り損ねるという心配がない安心感、そして連日にわたるの仕事の疲れからか、私はいつの間にかバスの中で眠っていたのです。
しばらく経ってふと気が付くと、バスは終点の三つ前の停留所を通り過ぎたところです。中を見渡すと乗客はいつの間にか私一人となっていました。時計を見るともう十二時を過ぎています。
(もうこんな時間かぁ。明日も早いのに)
ぼんやりとそんなことを考えつつ、バスがそのまま二つ目の停留所を通り過ぎたとき、ふと、一番後ろの席に乗客が一人いることに気が付きました。その乗客は女性で腰まで長く伸ばされた黒髪がとても印象的だったのを覚えています。
一瞬、前のバス停から乗車したのかとも思ったのですが、バスは私が目を覚ましたときから一度も停車していません。
(あれ?さっき見たときは確かに私一人だったはず…)
そんなことを思いながらも、きっと私が見過ごしたんだろうと軽く考えてしまったんです。
…こんな狭いバスの中で、見過ごすことなどあるはずないのに。
そうしてバスが終点一つ前の停留所を通過しようとしたそのとき
ピンポーン
静まり返ったバスの中で停車を知らせる音が響き渡りました。
(え、ここで降りるの!?)
私は驚き、後ろを振り返りました。
だってそこは近くに住宅もなく街頭もない、昼間でも人通りなく閑散とした場所で、薄気味悪く、近所に住む人はもちろん私さえ一度も降りたことのない、ほぼ使われてないようなバス停だったのです。
(まあ、そんな人もいるよね)
そんなバス停で降りる女性に私は特に疑問を抱くことなく、バスを降りようと降車口へ向かう女性を横目に見送りました。
そして、その女性はそのまま降車口でお金を払うことなくバスを降りていったのです。
「ちょっと…!」
女性を呼び止めようとした私の手をバスの運転手さんがつかみ、
「いいんだ」
と小さく首を横に振りました。
「でもっ…」
それでもなお、納得がいかず女性を追いかけようとする私に運転手さんはややうつむき加減でひとつの疑問をなげかけました。
「あの女性、いつからいたか知ってる?」
「それは…」
それは少し前の私がただの思い過ごしとかたずけた小さな、小さな疑問。
そして運転手さんは続けました。
「…それだけじゃない。きみはあの女性の顔を覚えているかい?」
「もちろんです!」
人を馬鹿にしているのだろうか。いくら頭が良くない私でもほんの数秒前に別れた人の顔だ。忘れるわけがない。
そう思い記憶の糸をたぐりよせる。
「そう、髪が腰まで伸びてて…」
そこで言葉が、思考が、止まる。
確かにあの女性は印象強い長い黒髪だった。それは良く覚えている。
…じゃあ、顔は?彼女の顔はどうだった?
手繰り寄せても手繰り寄せても、
その記憶だけ見つからない。
思い出せない。
どうして…
どうして…!!
「わからないんだろう?」
「あ…!」
たまりかねた運転手さんの言葉で、私は我に返りました。
「あの、でもそれはっ…」
必死にとりつくろおうとする私に、運転手さんは静かに言葉をおとしました。
「いいんだ。みんなそうだから」
「…え…?」
みんな…?
みんなってなに、どういうこと?
困惑する私に運転手さんはひとつひとつ語り始めました。
三年前からあの女性が現れ始めたこと。
必ず、乗客が一人の時にしか現れないこと。
そして、その女性の顔について記憶がなくなること。
そのどれもが私にはとてもじゃないけど、受け入れられない話で、ただただ困惑するばかりでした。
あれから半年…
私は相も変わらず、バス通勤を続けています。
当時は受け入れることの出来なかった話も、いまは受け入れることが出来ています。
あれから私は最終には乗っていません。そしてこれからも乗ることはないでしょう。
ただひとつ、あの時運転手さんは今まで誰も彼女の顔を覚えていた人はいないと言っていました。
もしあのとき、私が彼女の顔を覚えていたら、記憶していたら、私はどうなっていたのでしょうか…
2008/07/
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